「この屋根はもう塗装では持ちません。カバー工法にしましょう」。業者からそう言われて、判断に迷っていませんか。
塗装なら50万円で済むはずが、いきなり100万円を超える話になる。かといって放置すれば雨漏りするかもしれない。何を基準に決めればいいのか分からず、返事を保留したままの方は多いはずです。
結論からお伝えします。カバー工法の相場は30坪で80万円から150万円です。ただし、この工法には選べない条件があります。そこを知らずに契約すると、数年後に後悔することになります。
この記事では、建築施工管理として30年間現場を見てきた経験から、費用の相場と工法の選び方をお伝えします。金額だけで決めると、将来かえって高くつくことがあるのです。
カバー工法の費用相場

カバー工法とは、既存の屋根を撤去せず、その上から新しい屋根材を重ねる工事です。重ね葺きとも呼ばれます。
古い屋根を剥がさないぶん、廃材の処分費と解体の手間がかかりません。そのため葺き替えより安く、工期も短く済みます。まずは3つの工法を並べて、金額の位置関係をつかんでください。
3つの工法の比較
| 工法 | 費用の目安 | 工期 | 耐用年数 |
|---|---|---|---|
| 屋根塗装 | 40万〜70万円 | 7〜10日 | 10〜15年 |
| カバー工法 | 80万〜150万円 | 5〜10日 | 20〜30年 |
| 葺き替え | 100万〜250万円 | 7〜14日 | 20〜40年 |

ここで気づいていただきたいのは、カバー工法のほうが塗装より工期が短いという点です。塗装は乾燥時間が必要なぶん、意外と日数がかかります。
費用の内訳
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 足場・飛散防止シート | 15万〜25万円 |
| 防水シート(ルーフィング) | 5万〜10万円 |
| 新しい屋根材と施工 | 40万〜80万円 |
| 棟板金・役物の設置 | 10万〜20万円 |
| 諸経費 | 5万〜15万円 |
ここでも足場代が2割前後を占めます。外壁の塗装も検討しているなら、同じ足場でまとめて行うほうが合計は安くなります。数年後に別々に工事すれば、足場代をもう一度払うことになるからです。
安く見える理由
カバー工法が葺き替えより安いのは、撤去と処分の工程がないからです。
特に差が出るのが、アスベストを含む古いスレート屋根のケースです。撤去するとなると決められた手順での処分が必要になり、その費用が上乗せされます。カバー工法なら剥がさないため、この費用がまるごと不要になるのです。
葺き替えとの違い

では、どちらを選ぶべきなのでしょうか。金額だけを見ればカバー工法が有利に見えます。
しかし判断の分かれ目は金額ではありません。屋根の下地がどうなっているか、この一点です。下地の状態によっては、そもそもカバー工法という選択肢が存在しません。順に説明します。
下地を確認できるかどうか
最大の違いはここです。葺き替えは既存の屋根を剥がすため、下地の状態を目で見て確認できます。傷んでいれば、そこで補修や交換ができます。
一方、カバー工法は剥がしません。つまり下地が腐っていても、その上に蓋をしてしまうことになります。数年後に雨漏りが再発しても、原因の特定が難しくなるのです。
屋根の重量が増える
屋根材を2層にするため、建物にかかる重さが増えます。
| 屋根の構成 | 1平方メートルあたりの重さ |
|---|---|
| ガルバリウム鋼板のみ | 約5kg |
| 化粧スレートのみ | 約20kg |
| スレート+カバー工法 | 約25kg |
| 粘土瓦 | 約45kg |
表のとおり、スレートにカバー工法をしても瓦屋根より軽い状態です。過度に心配する必要はありません。ただし耐震性を最優先するなら、軽くなる葺き替えのほうが有利になります。
将来の撤去費用
見落とされがちなのが、次の工事のときの話です。
カバー工法をした屋根をさらに葺き替える場合、2層分をまとめて撤去することになります。処分する量が倍になるため、そのときの費用は割高になるのです。
これは「損」ではなく「先送り」だと理解してください。今の負担を減らす代わりに、将来の負担が増える。あと何年その家に住むかで、有利不利が変わります。
選べない条件

ここがこの記事で最もお伝えしたい部分です。カバー工法は、どの家でもできるわけではありません。
条件を満たさない屋根に無理やり施工すれば、数年で問題が起きます。にもかかわらず、確認をせずに提案してくる業者が存在するのが実情です。ご自宅が該当しないか、必ず確認してください。

瓦屋根は施工できない
粘土瓦やセメント瓦の屋根には、カバー工法はできません。
理由は2つあります。瓦の表面に凹凸があるため新しい屋根材を平らに固定できないこと、そして瓦自体が重く、重ねると建物の負担が大きすぎることです。瓦屋根の場合は葺き替えか、瓦の差し替えなどの部分補修になります。
下地が傷んでいる場合
屋根材の下には、野地板という板と防水シートがあります。ここが傷んでいるなら、カバー工法は選べません。
新しい屋根材は、下地に釘やビスで固定します。下地が腐っていれば固定できず、強風で飛ばされる恐れがあります。ここを確認せずに施工する業者は、後々の責任を考えていません。
雨漏りしている場合
原因が屋根材の劣化だけなら、カバー工法で解決することもあります。しかし下地や防水シートまで傷んでいる場合、上から覆っても雨漏りは止まりません。原因が分からないまま工事をして、直らなかったという相談は本当に多いのです。
使われる屋根材

カバー工法で使う屋根材は、軽さが最優先されます。重ねる工法である以上、これは当然のことです。
現在の主流は金属屋根で、なかでもガルバリウム鋼板が広く使われています。ここでは代表的な選択肢と、その違いを説明します。見積書に書かれた製品名を確認する際の参考にしてください。
ガルバリウム鋼板
最も一般的な選択肢です。軽くてサビに強く、価格と性能のバランスが取れています。
耐用年数は20年から30年程度です。近年はさらに耐食性を高めたSGL鋼板(エスジーエル)という改良品も普及しており、こちらは25年から35年が目安になります。予算が許すならSGLを選んでおくと安心でしょう。
断熱材一体型
金属板の裏に断熱材が貼り付けられた製品です。
金属屋根は雨音が響きやすく、夏場は熱を伝えやすいという弱点があります。断熱材一体型はその両方を軽減できます。費用は1割から2割ほど上がりますが、2階を寝室に使っている場合は検討する価値があります。
防水シートの重要性
見積書で必ず確認してほしいのが、防水シートの記載です。ルーフィングとも呼ばれます。
実は雨水を最終的に食い止めているのは、屋根材ではなくこのシートです。屋根材だけ新しくしてシートを省く業者がいます。改質アスファルトルーフィングなど、製品名まで書かれているか確認してください。
業者選びの注意点

カバー工法は、良い業者と悪い業者の差が出やすい工事です。
既存の屋根を剥がさないため、下地の確認を省こうと思えば省けてしまうからです。施工管理として30年見てきた立場から、契約前に確認すべき点をお伝えします。
下地を確認したか尋ねる
最初にすべき質問は、これです。
小屋裏からの点検、または一部の屋根材を外しての確認が一般的です。「見た目で大丈夫そうです」としか答えられない業者は避けてください。根拠のない判断で百万円の工事を任せることになります。
見積書の確認項目
- 屋根材のメーカー名と製品名
- 防水シートの製品名
- 施工面積の数量表示
- 棟板金など役物の記載
- 足場代の独立した記載
「屋根カバー工法一式」としか書かれていない見積書は避けましょう。製品名が書けるということは、何を使うか決まっているということです。書けない業者は、その場で安い材料に変える余地を残しています。
保証の内容
屋根工事では、保証の中身が特に重要になります。
確認すべきは、屋根材そのものの保証と、施工に対する保証が分かれているかという点です。メーカー保証があっても、施工不良は対象外になります。雨漏りが再発した場合の対応を、書面で確認しておいてください。
よくある質問

カバー工法について、よく寄せられる質問をまとめました。
住みながら工事できるか
できます。引っ越しの必要はありません。
ただし屋根の上で作業するため、日中は音が響きます。在宅で仕事をされている方は、業者に作業時間を確認しておくとよいでしょう。
何回までカバーできるか
基本的に1回だけです。2回目のカバー工法は、重量の面からも固定の面からも現実的ではありません。
すでにカバー工法をした屋根を再度リフォームする場合は、葺き替えになると考えてください。
火災保険は使えるか
台風などの自然災害で屋根が壊れた場合は、対象になる可能性があります。
ただし経年劣化によるリフォームは対象外です。判断するのは保険会社なので、業者の「保険で無料になる」という言葉は信用しないでください。
アスベストがあっても大丈夫か
むしろカバー工法が向いているケースです。剥がさないため、飛散のリスクも処分費用も発生しません。
2004年以前に建てられた住宅のスレート屋根には、アスベストを含む製品が使われている可能性があります。撤去する場合は費用が上がるため、カバー工法との差が大きくなります。
屋根が重くなって心配
スレート屋根にガルバリウム鋼板を重ねた場合、瓦屋根より軽い状態に収まります。
過度に心配する必要はありません。ただし、もともと瓦から軽い屋根に葺き替えて耐震性を上げたいという目的があるなら、葺き替えを選ぶべきでしょう。
補助金は使えるか
自治体によっては、住宅リフォームの助成制度の対象になる場合があります。
断熱材一体型の屋根材を使う場合、省エネ改修として扱われることもあります。「お住まいの市区町村名+屋根+補助金」で検索してみてください。
まとめ

カバー工法は、条件が合えば費用も工期も抑えられる優れた工法です。ただし万能ではありません。
今日できることは1つです。提案してきた業者に「下地の状態はどうやって確認されましたか」と尋ねること。この一言への答え方で、その業者の姿勢が分かります。
私が30年の現場で見てきた中で、屋根工事で損をする方には共通点がありました。それは見えない部分の確認を省いたまま契約したことです。屋根は普段見えないからこそ、確認したという事実が大切になります。
このブログでは、住まいのメンテナンスを業者側の視点からお伝えしています。ご自宅を守る判断が、少しでも楽になれば幸いです。


コメント